SUISUIおすすめ図書|井上雄彦『円空を旅する』
漫画家が涙した円空仏とは

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漫画『SLAM DUNK』や『バガボンド』で知られる漫画家 井上雄彦氏。その井上雄彦氏が、一人の仏師を追いかけて旅をした本があります。それが『円空を旅する』という一冊です。

この本は、仏像の解説書ではありません。漫画家が、ひとりの表現者として江戸時代の仏師・円空を追いかけた旅の記録です。

円空とはどんな人物だったのか

円空は江戸時代の僧であり仏師です。全国を旅して生涯で12万体の仏像を彫ったと言われています。通常の仏像は、寺院や権力者のために作られることが多いものです。しかし、円空の仏の多くは、寺院のために作られたものではありません。貧しく立派な寺もない村々のため、旅で出会った名もなき人々のために彫られた仏像です。
当時の山間の村々には、寺も仏像もない場所も多くありました。当時の人々にとって、仏様にすがることができない環境がどのようなものだったか、そこには現代の私たちには想像もできない深い絶望がありました。
円空は全国を歩きながら、村に立ち寄り、木を削り、仏像を彫り、その土地の人々に仏を残していきました。それは、名声のためでも、芸術のためでもありません。人々を救いたいという祈りの行為だったのです。

円空が生まれた場所、郡上市美並町

円空の生誕地とされているのが郡上市美並町です。長良川が流れ、深い森と山に囲まれた場所。今でも自然が豊かで、清流と山の景色が広がっています。この森で育った少年が、のちに全国を旅する僧となりました。円空は幼き頃、洪水によって眼前で母親を亡くしました。自然の中で祈り、人々を救うために仏像を彫るという、円空の思想は、このような幼少期の自然との関わりや体験から影響を受けたと言われています。

井上雄彦氏が円空仏に涙した理由とは

井上雄彦氏は、円空仏を見たときのことを「目から水が出た」と語っています。円空仏には荒々しい彫り跡が残っています。木を削った跡。迷いのない線。完成された美術品というより祈りそのもののような存在。漫画家である井上雄彦氏は、その彫り跡に強く心を動かされました。
この本には井上雄彦氏自身のスケッチが多く掲載されています。円空仏をじっと見つめ、線を追いながら描かれたスケッチ。まるで漫画家が、円空の心を、円空仏やその土地を通して追いかける旅のような本です。

円空ゆかりの場所

円空の足跡を感じるゆかりの場所は、郡上市にも多く残っています。旅にいらした際に、ぜひ訪れてほしいおすすめの場所をいくつか紹介します。

粥川寺

岐阜県郡上市美並町高砂1252-2

円空は、粥川寺で得度し仏門に入りました。高賀山六社の一つ星宮神社の別当寺(神社の管理などをする寺)となっており、星宮神社の脇に存在していました。現在はその跡地を見ることがきます。星宮神社はその名の通り、星に縁を持つ神社です。ぜひこの場所で、満点に煌めく星々を眺めてみてください。円空が見たであろうこの場所に特別な気配を感じていただけると思います。

円空の里 美並ふるさと館

岐阜県郡上市美並町高砂1252-2

星の宮神社に隣接されており、円空の初期から晩年の作品約90体を展示しています。普段仏教や精霊信仰などに馴染みのない方でも、分かりやすく、円空の歴史や思想、円空仏について知ることができます。円空を知る入口としておすすめの場所です。

円空岩

岐阜県郡上市美並町 川干谷沿

長良川沿いにある岩で、円空が修行した場所と言われています。円空はここで、仏像を作り、疲れて食物が欲しくなると仏像を川に流しました。下流には村があり、流れてくる仏像を見ると村人が食物を運んだそうです。静かな川の風景の中で、自然と向き合う円空の姿を想像できる円空好きにはロマン溢れる場所です。

日本まん真ん中センター(円空研究センター)

郡上市美並町白山430-4

センター内に、円空研究センターがあり、円空仏の情報や、円空の生涯を紹介するジオラマや年表を展示しています。

円空の湯

岐阜県郡上市美並町大原2709

2025にリニューアルオープンした美並町にある温泉施設。ヒノキ材をふんだんに利用した浴槽や、露天風呂など、森の中にいるようなリラックス感を味わえます。館内の食事処は、腸活や美容がテーマとした韓国料理で、外と中から体をリフレッシュできます。また、長良川鉄道の駅直結なので、交通の便が良い点もおすすめです。

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本を読むことで変わる風景

『円空を旅する』を読んでから郡上市を歩くと、郡上の景色が少し違って見えてきます。山、川、森、寺、それぞれがただの風景ではなく、祈りの場所としての側面が立ち上がってきます。円空はこの土地から旅に出ました。その旅の途中で、日本中に仏像を残しました。それは人々の苦悩に寄り添い、救済することのみを目指した円空の思いに他なりません。そんな想いが込められたひと掘りひと掘りが多くの人の心を動かしています。井上雄彦氏の視点を通して、ぜひ風景の裏側にある味わい深い歴史や文化を味わってみてください。